ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
─聞こえるか─
そのとき、暖炉の奥からもうひとつ声がした。
低い男の人の声だけど、私を追いかけ回す犯人のものとは違っている。
驚いて壁に囲われた狭い暖炉の中の空間を恐る恐る振り返るが、もちろん誰もいない。
今の声は誰?
─目を閉じていろ─
また。頭の中に直接響いてくる。
声の指示に従ったわけではないけれど、私は再度きつく目を閉じていた。
怖くてもう何も考えたくない。
聞こえていた犯人の足音が、この暖炉の前で止まった。
そのまま動かない。おそらく、ここにいることに気づかれた。
ダメだ、もう見つかる。私きっと殺されるんだ。
目だけではなく、耳も塞いだ。
すると、耳を塞いだはずなのに、暖炉の奥でゴゴゴゴ……と深く轟くような音がした。
それは耳を塞いだからやっと耳に届いたのだとも言える。
振動が脳の奥まで響いてきて、その音はだんだん大きくなり、私へと迫ってくる。