ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
ハインリヒの言葉に、私も不安になってシュヴァルツさんを見た。私が助かるか、ではなく、シュヴァルツさんのことが心配になった。
二十万という金額は相当なもののようで、司会者は興奮しながら口を挟んだ。
「ご、ご存知だとは思いますが、もしオークション会場を出るまでに宣言した金額をお支払できなかった場合、規約違反として重罪に処されます!」
私は聞こえてきた“重罪”という言葉に背筋が凍りついた。
シュヴァルツさんがお金を支払えるのか否かについては私には全く分からないが、支払えるのだとしても巨額の損失、支払えない場合は重罪人になるという、私にとってはどちらに転んでも彼を追い詰めているということに変わりなかった。
「シュヴァルツさん……」
“私は大丈夫ですから”なんて言葉が口から出そうになったが、今の状況は全然大丈夫ではない。嘘でも言えない。
ハインリヒに競り落とされてから逃げ出せるんじゃないか……と他の策を考えてみても、いざそれを実行するのかと思うと、恐怖で体が震え出し、とてもできそうになかった。
シュヴァルツさんに頼るしかない。
周囲の音が遠くなり、私は閉ざされた殻の中で、これまで他人を不幸にしてきた自分の人生を振り返っていた。
長い間、真っ暗闇の中をもがいてきた。
誰かと関わることは恐ろしく、人間ばかりひしめき合ったあの世界は私にとって鳥かごのようだった。