ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
狂った赤い眼光。この人は、内にある狂気をずっと隠していたのだ。
「……それに人間を巻き込んで良い道理などない」
シュヴァルツさんが至極全うなことを呟いた途端、それを聞いたネロはギョロりと白目を丸くし、心の中にあったヘドロを吐き出すかのごとく、狂ったように笑い出した。
シュヴァルツさんは動じないが、私はその迫力に体が震え上がる。
「フハハハハ!シュヴァルツ、貴様何を言っておる!人間が何だ!アレはわしらの餌にすぎぬではないか!アレに対して道理を持ち出すなど、貴様本当に純血のヴァンパイアか!人間を捕食せず護ろうなどと、若造どもが考え出した愚かな決まりじゃ!狂っとる!光に集まる蛾のような単細胞の人間どもには、歴史も文化も必要なかろう!さあ、ソレをわしに寄越せ!」
ネロの反対の手が、私に向かって勢いよく伸びてきた。
私は喉に叫び声を詰まらせたまま、ギュッと目を閉じて顔を伏せる。しかし、何も起きない。すぐそこにネロの手がある気配があるのに、それは私の頭に掠りもしない。
代わりに「ぐわあっ」というネロの潰れた呻き声が響き、目を開けると、私へと伸びていた腕は、目の前で関節に逆らって折れ曲がっていた。
それを掴み上げて折っているのは、シュヴァルツさんの手だった。
「ぐああ!離せ!貴様ぁ!」
「……薄汚い手で、アカリに触るな」
恐ろしく低い声だった。
シュヴァルツさんの表情は、今までに見たことがないくらいに激しい怒りを浮かべており、腕を掴み上げる手に浮かび上がった血管からは、そこにどれほどの力が込められているのか見てとれた。