ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋

「水無月さん……」

大学でしか会ったことのなかった彼女は、今はノア君の背中でぐったりと目を閉じている。

きっと怖い思いをしただろう。無理やり連れてこられて、周りは敵だらけの中、眠ることもできなかったはずだ。

水無月さんを不安げに見つめていると、シュヴァルツさんの声が降ってきた。

「心配するな。眠っているだけだ。戻すときには忘却の術をかけ、連れ去られた記憶は消してやる」

その言葉がひっかかった。

「記憶を消す?」

「俺達の世界のことが人間界に知られては厄介だ。……アカリ、お前も、扉をくぐる前に、ここでの記憶を消さねばならない」

それって、ここでのことやシュヴァルツさんのことを、全部忘れてしまうということ──?

「嫌です!」

考えるより先にそう言っていた。反抗した目を彼に向ける。

「アカリ」

「嫌!嫌です!私、帰りません!」

< 188 / 209 >

この作品をシェア

pagetop