ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
「水無月さん……」
大学でしか会ったことのなかった彼女は、今はノア君の背中でぐったりと目を閉じている。
きっと怖い思いをしただろう。無理やり連れてこられて、周りは敵だらけの中、眠ることもできなかったはずだ。
水無月さんを不安げに見つめていると、シュヴァルツさんの声が降ってきた。
「心配するな。眠っているだけだ。戻すときには忘却の術をかけ、連れ去られた記憶は消してやる」
その言葉がひっかかった。
「記憶を消す?」
「俺達の世界のことが人間界に知られては厄介だ。……アカリ、お前も、扉をくぐる前に、ここでの記憶を消さねばならない」
それって、ここでのことやシュヴァルツさんのことを、全部忘れてしまうということ──?
「嫌です!」
考えるより先にそう言っていた。反抗した目を彼に向ける。
「アカリ」
「嫌!嫌です!私、帰りません!」