ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
この美しい姿を目の前にすると、彼がヴァンパイアだということを不思議と信じることができた。
もっと驚いてもいいはずなのに、見ただけで分かるが、彼は人間ではない。
人間だと言われるほうが信じがたい。
「あの、私、ヴァンパイアを見るのは初めてで、ここは一体……」
「お前、血が匂う」
「へ!?」
こんな状況でも男の人に“匂う”と言われれば恥ずかしくなるもので、慌てて血の流れていた膝を手で拭った。
拭った血が移り、手のひらにも滲んでいく。
傷口に走った鈍い痛みに思わず顔を歪ませると、彼の白手袋の手が、また私の手首を掴んで止めた。
「広げるな。面倒だ」
この人、触り方は乱暴なのに、力の加減は絶妙で痛みを感じない。
そのおかげで彼に触れられることへの恐怖は徐々になくなっていた。
悪い人じゃない。
手が触れただけでそんな気がした。
犯人の赤い目は見ただけで体が震えあがったのに、そのときとはまったく違っている。