ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
私もなぜ無抵抗にあんなことを許したのかは分からない。突き飛ばして逃げることもできたのに。
いや、痛みはなくても彼の力は強かったから、逃げることはできなかったかも。
それでも正直、嫌悪感はなかったのだ。
今も唇に感触が残っているけれど、それを拭い去りたいとは思っていない。
キスをされたのに嫌ではなかった、ということが余計に恥ずかしくて、私は彼と目が合わせられなかった。
「立て。ここにいると充満した匂いが移る。場所を変えるぞ」
「変えるって、どこへですか?」
「いちいち質問するな。黙って従え」
命令口調に体が強張ったが、彼は突き放す言葉とは裏腹に、私の肩を優しく抱いた。
強制力のあるものだったけれど、とても自然で、柔らかい動きだった。
キスをされた後で肩を抱かれれば誰だってドキドキするものだろう。
私も例外ではなく、心臓がうるさいくらいに鳴っている。
彼にはなぜか反抗できない。
「いいか。この部屋を出たら絶対に俺の懐から離れるな。何を見ようとも一言も口を利いてはならない。できるか?」
「わ、分かりました……」
「行くぞ」