ヴァンパイア・シュヴァルツの初恋
言いたい放題、言われちゃった……。
私には何も言い返す権利はないけれど、心は冷凍庫で冷やされたあとパキパキに割られたかのように、壊れそうだった。
悔しい。悔しい……。
先輩の背中が階段へと曲がって見えなくなってから、私は唇を噛んだ。
──私の気持ちなんて、先輩に分かるわけない。
そう思った途端だった。先輩が消えた方向で、ガタガタと何かが崩れ落ちる音がした。
「おい加賀!大丈夫かよ!」
そしてすぐに加賀先輩の名前を呼ぶ人の声が響き、私は嫌な予感がして、すぐに加賀先輩のもとへと走った。
「いってぇ……」
駆けつけた階段では加賀先輩が背中を押さえて倒れ込んでおり、彼がカバンにしまっていた書類があたり一面に散乱していた。
彼の友人の院生が手を貸して、書類を拾い集めて先輩を立ち上がらせているところだった。
「おい加賀、なんで何もないところで転ぶんだよ。頭打ってたら死んでたぞ。念のため病院行くか?」
「いや、大丈夫。おかしいな。転んだつもりなかったんだけどな……。気付いたら落ちてたわ」
先輩はそう言うと、笑いながら背中をさすった。
背後で私が見ていることに気づくと、恥ずかしそうに「大丈夫」というジェスチャーをしてから、友人と階段を降りていく。
取り残された私は立ち尽くした。
彼の友人の言葉が、頭の中でリフレインする。
『頭打ってたら死んでたぞ』
そうだ、先輩は死んでたかもしれない。
私はその場に崩れ落ちた。
きっと“また”私のせいだ……。