年下御曹司は初恋の君を離さない

 残念ながら私も名刺を持ち合わせていないが、挨拶だけはしておかなくてはならないだろう。
 そのときになって、自分が友紀ちゃんと手を繋いだままだったことに気がついた。

 藤司さんの存在に気を取られていたために、頭から抜け落ちてしまっていたようだ。
 もしかして、先ほど藤司さんに怪訝な顔をされたのは、これが原因だったのかもしれない。

 慌てて友紀ちゃんから手を離して、小華和堂の社員として挨拶をしようとしたのだが、藤司さんの声にかき消されてしまった。

「小華和さん、こちらの女性は社員の方でしょうか?」

 藤司さんの意図が読めない。そんなこと聞く必要が彼にあるのだろうか。
 お互い、このまま何事もなくスルーするのが大人のたしなみというヤツだろう。

 それなのに、どうしてそんなふうに聞いてまで私と関わろうとしてくるのだろうか。
 初対面を装うのなら初対面らしく、私のことは空気だと思ってくれて構わないのに。
 私に直接聞いてこないというのが、また意味が読めない。

 友紀ちゃんが答える前に、さっさと挨拶をしてしまうに限る。
 そして、あとはお互いのトップ同士でお話してください、と影に徹しよう。

 社員なのか、と藤司さんは聞いてきている。
 それなら、秘書だということは伏せて「社員です」とだけ答えてしまおう。

 しかし、口を開きかけた私より先に友紀ちゃんが返答してしまった。
< 180 / 346 >

この作品をシェア

pagetop