失礼ですが、強い女はお嫌いですか?
黙ってそのやり取りを見ていた男の連れの女が、男の手の内を覗き込み、少し驚いた仕草を見せつつ、可愛らしい声で言う。
「これ、指輪じゃない? もしかして、さっきの人がロイの言ってた可愛いげのない婚約者?」
「……婚約指輪を突き返してきやがった。なんだあいつ、こんな時でも淡々として」
「確かに……私なら取り乱しちゃうし、泣いちゃうかも。ロイ、大丈夫?」
「あぁ。まぁ、いいさ。清々する。俺にはミライアがいるしな」
そう言いながら男は女の肩を引き寄せ額に口付ける。端から見ればただの強がりに見えなくもないが、女は気にしてないのか嬉しそうに男に身を預けた。
けれど、さすがに居づらくなったのか、男女は店長に詫びを入れ、酒も飲まずそそくさと店を後にする。
銀髪美女の店長はなにも言わず笑顔で二人を見送ったが、ドアが閉まった途端、その美しい表情をこれでもかと言うほど歪めた。
「わかってないわねー、あの男」
その言葉は消して店長の独り言ではない。
「可愛いげってなにかしら。隣の女の方が可愛いってこと? あの子、確実に依頼人が入店してきた時点で婚約者だってわかってたわよ。笑ってたもの」
答えたのは店内のテーブル席に座っている、艶やかな金髪に吸い込まれそうな薄紫の瞳をした可愛らしい顔立ちの女。
そしてーー
「確信犯ですね」
金髪の女の向かえに座る、緑色の瞳に眼鏡をかけた亜麻色の髪の女だった。
店長である銀髪の女、アイリスは他の客がいないのをいいことに、酒の入ったグラスを手に二人のテーブルへやってくる。
「上目遣いで、甘え上手、ちょっぴり泣き虫で、時々自分を頼ってくれる。そんな女の子が守ってあげたくなるくらい可愛く見えるのよ。私なんて、こんなに綺麗でモテるのに、最終的には一人でも生きていけそうとか言われるのよ」
途中から愚痴と化したアイリスの言い分に金髪の女、リリエラは苦笑いを浮かべた。
何故なら、実際、アイリスは頼れる親もおらず、一人で店を切り盛りしているからだ。
だからと言って、一人でも生きていけるとは決して思っていないけれど。