誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
彼の言う先生は、小春の父のことだ。
彼――平田虎太郎(ひらたこたろう)は、十年前、高校卒業後、父の徳島のレストランでアルバイトをしていた青年だ。
最初はただのホール係だったのだが、父の仕事に感銘を受け、本気で料理を勉強したいと一念発起し、キッチンの下働きからスタートした。そして六年前からは、父の紹介で、関西のホテルのシェフとして、働いている。
十年前、十八歳だった虎太郎は、やんちゃな見た目に反して、小春を妹のようにかわいがってくれて、その付き合いは、今でも続いているというわけだ。
【――それでさ、電話した件なんだけど。中本さん、店畳むんだってな】
「うん……そうなの」
【で、お前はいつ帰るんだ?】
「それは……」
おそらく父から聞いたのだろう。
すぐに答えが返せず、ごにょごにょと、声が小さくなってしまった。
(本当は年末、帰ったときにでも、お父さんに、閑さんとルームシェアしてること、東京にいたいって、言うつもりだったけど……)
それもなくなってしまった。