誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
(ああっ……もうっ……!)
小春はまぶたの上にのせていた手をおろし、両手でパチンと頬を叩く。
頬にピリピリと痛みが走ったが、痛いくらいでちょうどいい。
勢いをつけて椅子から立ち上がると、キッチンへと向かう。
明日、閑にどんな顔をして会えばいいかわからないが、彼を避けることだけはやめたい。
(子供じゃないんだし……ちゃんとしないと! とりあえず、朝ご飯は作らないと!)
明日の朝――といっても、四、五時間もすれば朝食の時間になってしまうのだが、きちんといつも通りに朝ご飯は作って迎えたかった。
目の端に浮かんでくる涙を手の甲で拭いながら、お米を研ぎはじめた。
しゃっ、しゃっ、とお米を研ぐ音がキッチンに響く。
立つ鳥跡を濁さずという。
春までどころか、たった数週間の短い時間だったが、振り返ってみても、閑との同居は、楽しいことしかなかったのだから、もう十分だ。
せめて精いっぱいのことはして、それからちゃんと、閑に世話になったことと、これまでの感謝を込めて、ありがとうございましたとお礼を言って、出て行こう。
小春は泣くのをやめ、そう決意したのだった。