誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 小春が父について徳島に戻ったのは十年前、十四歳の時だった。

 一方虎太郎は県議会議員の三男坊で、せっかく入った大学にも通わず、ブラブラしていたところ、小春の父に拾われて、アルバイトで働くようになったのだ。

 当時はハッキリ教えてくれなかったが、父が夜の街で酔っ払いにからまれていたところを、虎太郎に助けてもらったのがきっかけらしい。

 レストランに、新しいホール係として入った虎太郎を見た十四歳の小春は、

『チンピラが来た!』

 と震えあがったのだが、見た目の恐ろしさに反して、虎太郎は面倒見のいい男で、小春もすぐに虎太郎に懐き、お兄ちゃん大好きっ子になったのだ。

 もしかしたら父は、虎太郎のそういうところを、見抜いていたのかもしれない。

「――そういや、お前、その……おばさんと連絡って取ってたりするのか?」

 厚揚げを口に運ぶ虎太郎に、小春は首を横に振る。

「おばさんって?」
「ーー母親」

 その瞬間、小春の胸に黒い影のような靄がかかる。

「お母さん……ね。本当にもう疎遠だよ。新しい家庭があるんだろうし」

 十年前の両親の離婚は、母の浮気が原因だった。

『好きな人と暮らしたい』と言って出て行った母が、その後どうしているかなど、小春は知らないし、父も教えようとはしなかった。

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