誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「なんとなくーっつか……」
「なんとなく?」
思わず虎太郎の言葉を繰り返してしまった。
虎太郎は白黒はっきりつけるタイプで、たいていの行動に意味がある。
なんとなくなんて、彼らしくない発言だ。
(お兄ちゃん……変だ)
じいっと見つめていると、虎太郎がはあっとため息をついた。
「いや、ごまかすのはやめる。お前ももう子供じゃないしな。俺もそのために会いに来たんだし」
「そのため?」
「研修はついでみたいなもんだ」
そして虎太郎は、食堂でふたりきりではあるのだけれど、声を押さえて、内緒話をするように、衝撃的な言葉をささやいたのだ。
「実はな、俺が働いてるホテルに、お前の母さんっぽい人がたまに来るんだ」
「――え?」
「ブライダルプロデュース会社の、スタッフなんだ。難波でそこそこ大手の……たぶんそれなりの地位にある人。俺はレストランだから、まぁ、打ち合わせで電話で話しをしたことはあるんだが、初めて聞いた時、声がお前にそっくりすぎて、ビックリしたんだよな。まぁ、でも声が似てるくらい、別に大したことじゃない。そう思ったんだが、その後、顔を合わせての打ち合わせに参加して、驚いた。声どころか、顔までそっくりなんだ」