誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 過去の自分を俯瞰的に見ている、今の小春の心が叫んでいる。

 自分は、母の喪失に傷ついたかもしれないが、その後は淡々とやり過ごしたはずだ。

 ああ、そうかと、ただ受け入れて――そして少しずつ臆病になって。

(お母さんなんて、どうでもいいわ……もう関係ない……)

 そう思っているはずなのに、セーラー服姿の小春は、泣くでもなく、悲しむでもなく、アルバムを見詰めて――。

 イヤだ。そんな自分を見たくない。

 後から傷つくとわかっているのに、愛されていた記憶を懐かしむなんて、無駄な作業のはずなのに。

(どうして昔の私は、こんなことをしてるの……? やめて、やめてよ……!)

 自分はもういい大人だ。
 泣きたくない。苦しみたくない。
 もう、子供じゃないんだから、今さら、母のことでなんか……傷つきたくない。

「――小春……?」

 すぐ近くで、女性の声がする。

 その声はとても懐かしく、あたたかく……。

(え……?)

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