誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

「――気にしてないみたい」
「してないな。もうこんな時間だし」

 閑は笑って、空を見上げた。

「鐘の音、まだ聞こえるね」
「そうですね」

 近所の寺では、十一時くらいに行けば整理券を貰える。そして十二時を過ぎても鐘が突けるのだ。
 ゴォン……と響く鐘の音に、ああ、年が明けたのだとなんだかワクワクした気分になった。

 そこでふと、閑が唐突に思いついたように、顔を覗き込んできた。

「ね、俺たちも行こうか」
「えっ、いいんですか?」

 一瞬、胸が弾んだが、ふと気が付いた。
 閑は何度もあくびをしていた。睡眠不足で倒れそうな雰囲気もある。

 そんな彼を人込みの中に連れて行くのは忍びない。

「でも、閑さん、疲れてるんじゃ――」
「いいって、そんなの」

 閑は小春の手を引いて、歩き出した。

 少し強引だが、特別なお出かけに、小春は嬉しくなった。
 
< 292 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop