誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~

 だが初めてと言い出せないまま彼に抱かれて、結局最後まで言えなかった。

 女子高からそのままエスカレーター式に女子大を出た小春は、『初めては大変』とだけ、周囲の友人から聞いていたのだが、大変どころかものすごくスムーズに事が終わり、むしろ記憶が吹っ飛ぶくらい甘くとろけるように愛されて、完全に言い出すきっかけを失ってしまったのだ。

 他人が聞けば、子供っぽいと笑われるかもしれないが、それがなぜか、ひどく恥ずかしかった。
 
(そうだ……とにかくこの場は逃げよう。そうしよう! 目が覚めた神尾さんに、どんな顔をしていいかわからない! っていうか、初めてなのも知られたくないし、全部忘れてほしい……!)

 小春はざっと部屋の中を見回す。

 とりあえずゴミは片付いている。閑は裸で、戸締りは気になったが、とりあえず布団にくるまっているので、大丈夫だろう。

(ごめんなさい、ごめんなさい! 身の程知らずでごめんなさい!!!)

 小春はそっと抜き足差し足で、槇法律事務所を抜け出し、深夜の商店街をまっすぐに、走り抜けたのだった。



< 53 / 310 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop