誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「俺は、小春ちゃんのこと――」
「忘れてくださいっ!」
閑がなにかを言い終える前に、小春は先に、そう叫んでいた。
「え……?」
閑が驚いたように目を見開く。
だが、小春は、どうしても目の前にいる閑の口から、その先は聞きたくなかった。
(“小春ちゃんのこと、好きじゃないのに、やっちゃってごめん”なんて、聞いたら、さすがに私、ちょっと立ち直れないもん……)
全て納得済み、今さらあの夜のことを後悔しないと思っていても、さすがに本人に直接そんなことを言われたら、辛い。
(だから……なにも言わないでほしい)
小春はそう思いながら、相変わらず黙り込んだままの閑を見詰め、言葉を選びながら、口を開く。
「昨日の夜のこと、なかったことにしてほしいんです……」
「なかった、こと……?」
小春の言葉をそのまま繰り返す閑の表情が、みるみるうちに暗く陰ってゆく。
人のいい彼のことだから、忘れてくれと言われて、謝罪の行き場がなくなり、困っているのだろう。
そう思うと、余計切なさが募る。
だがどうしても、小春は昨晩のことを閑に謝られたくなかったのだ。