誘惑前夜~極あま弁護士の溺愛ルームシェア~
「わがままかもしれないけれど、私、神尾さんには今まで通り、普通に……接してほしいんです……。駄目ですか?」
そんなわがままが通るとは思えないが、彼との他愛ない日常は、諦めきれない。
もうこの先が短いとしても、いい思い出だけが、欲しかった。
「小春ちゃん……」
どこか切なそうに、閑が名前を呼ぶ。
どうも小春の言葉がすぐに消化できないようだ。
いつも饒舌な閑だが、小春の意思を聞いて、「でも……」と、何度か口を開きかけては閉じを繰り返す。
そして、きれいな長い指で、少し癖のある明るい髪をかき回した後、観念したように、うなずいた。
「――わかった。それが君の望みなら」
その瞬間、小春の胸に安堵が広がった。
ああ、よかったと本気で思った。
「ありがとうございます」
小春はホッとして、頭を下げたが、
「でも、同居はするから」
という閑の言葉に、思考回路が停止してしまった。