明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「おはようございます」


私に近づいてきた行基さんは、まだ浴衣姿だった。

崩れていたのを整えられてはいたけれど、昨日彼の素肌に触れてしまったことを思いだして、目を合わせられない。


「餌、一緒にやるか?」
「いいんですか?」


まさか、一緒にと提案されるとはびっくりだ。


「あぁ。俺も子供のときはよくやった。だが寒い時期はあまり食べないぞ」
「そういうものなんですね」
「あぁ。食欲が落ちるようだ」


彼は大きくうなずき、履物をはいて庭に下りてくる。


「あや。女中からパンをもらっておいで。餌用に準備してあるはずだ」
「はい!」


なんだか楽しくなってきた。

着物の裾をこっそり持ち上げ早足で歩く。
走りそうになったが、決して走ってはいけないという作法の先生の言葉を思いだしたからだ。


女中からパンをもらって戻ると、行基さんは落ちた椿を手に乗せて眺めていた。


「まだ美しいのに落ちるのはもったいない」
「行基さんもそう思われますか? 私もです」
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