明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
行基さんは、一ノ瀬さんを下の名前で呼ぶ。
部下というより友人として接しているのだろう。


一ノ瀬さんは先に廊下を歩いていってしまう行基さんのうしろ姿を眺めながら、私に手を差し出してくる。


「さあ、参りましょうか」


一ノ瀬さんの声に反応した行基さんがふと足を止め振り向いた。


「信明。俺のものに触れるな」
「わかりましたよ」


一ノ瀬さんは不機嫌全開で返事をしているけれど、『俺のもの』と言われた私は行基さんの思わぬ独占欲に、密かに胸をときめかせていた。


朝食の間、ふたりは仕事の打ち合わせをしていた。

もしかしたら一ノ瀬さんが津田家を訪れるのは、仕事の一環なのかもしれない。


「わかった。そっちはなんとかする。お前は、工場のほうに足を運んでくれ」
「了解です」


話がひと段落すると、行基さんが私に視線を送る。


「すまないな、あや」
「なにがでしょう?」
「お前にはわからない話ばかりだろう」
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