明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
やはり彼は優しい。
私なんて放っておけばいいのに。


「いえ、大丈夫です。お仕事お忙しいんですね。お体にお気をつけください」
「はー、いいですね、こういうの。俺も見合いしようかな」


一ノ瀬さんが口を挟むと行基さんは「さっさとそうしてくれ」と冷たいひと言を放った。


食事が終わると着替えだ。

手伝うべきかどうか廊下で迷っていると、「あや、そこにいるんだろう? 入ってきなさい」と行基さんに呼ばれた。

彼はもうすでにシャツとズボンを身につけていた。


「手伝いなさい。ネクタイは結べる?」
「いえ。触れたこともありません……」
「それではあやの仕事にするから、覚えて」


やった。ひとつ仕事がもらえた!と喜んだのもつかの間。
彼が目の前でスルスルとネクタイを結んでいくのを見ていても、まったく理解できない。


「わかったかい?」
「すみません。まったく……」


正直に答えると彼は「あはは」と声を上げて笑う。
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