明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「見ているだけでは無理そうだな。それでは」


どうしたんだろう。
彼は一度結んだネクタイを外してしまった。

そして、なぜか私の首にかける。


「いいか、ゆっくりやるから覚えるんだよ」
「は、はい」


行基さんは私のうしろに立ち、肩越しにネクタイに手を伸ばしてくる。


「まずはここを交差させ、ここを通す」


彼は実践しながら教えてくれているが、体が密着しているせいでドキドキして心臓が破裂しそうだ。

それでも、一言一句聞き漏らすまいとして必死に頭に叩き込む。


「——最後にここを通す。そして引っ張ると出来上がりだ」
「行基さん、器用でいらっしゃるんですね」


胸の高鳴りを隠して感嘆のため息を漏らすと、彼はクスッと笑みを漏らす。


「器用なものか。誰でもできる。信明でもね」
「それでは、一ノ瀬さんに負けないように頑張ります」
「はははっ、せいぜい頑張って」


おかしなことを言ってしまったかしら?
思いきり笑われてしまった。
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