明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
母のように舞がうまくなりたい。
母の舞を見たことすらないけれど、それを学ぶことで母に近づける気がしているのだ。


「舞踊とはまた……」
「芸妓さんのようになりたいのです」


ふとそう漏らすと、彼の表情が一変して、視線が尖ったのを感じる。


「それは俺をバカにしているのか?」
「えっ? そんなわけがありません。どうした——」


なにをそんなに怒っているの?

彼は眉根を寄せ、私に背を向けてしまった。

なにがいけなかったんだろう。


「行基さん、お気に触るようなことがあったのなら申し訳ありません」


慌てて謝ったが返事はない。

それ以上言葉を発する勇気もなく、どうすることもできなくなった私は、ただただ不安な夜を過ごした。



翌朝、行基さんは食事のときもひと言も話さず、せっかくネクタイを結ぼうとしたのに、自分で結んでしまう。

やっぱり怒ってる……。

今日は一ノ瀬さんも訪ねてこなかったので、ずっと気まずい雰囲気だった。
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