明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「行ってらっしゃいませ」


それでも仕事の前にあれこれ詮索するのはよそうと思い、笑顔を作って送り出した。

舞を習いたいというのは失礼なことなのかしら?


「あの、貞……」
「はい、なんでしょう」
「えっと……なんでもない」


貞に尋ねてみようと声をかけたが、それを聞くこと自体恥ずかしいことだったらどうしようとやめておいた。


自分の部屋に戻り、ボーッと外を眺める。

女中の仕事ならわかるのに、上流階級の人たちの生活がわからない。

一橋家も祖父の時代はかなり潤っていて、おそらく津田家と同じような生活環境だったはずだけど、父の代になってからは落ちぶれる一方だ。

初子さんは子爵令嬢としての教育を受けてきたものの上には上がいて、『完璧なお嬢さまは私たちとは違うのよ』と彼女はよく口にしていた。


「無理、なのかな……」


私に行基さんの妻は務まらないのかな。

いや、そんな弱音を吐いている暇があったら努力しよう。
まだなにも始まってないじゃない。
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