明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
話の最後のほうは周りがざわついていてよく聞こえなかったので、それを聞き一気に緊張がほどけた。


「手柄だぞ。それにしても資料とやらはどうしたんだ?」
「一ノ瀬さんに用意していただきました」


そう答えると彼は唖然としている。


「そんなことはひと言も聞いてない」


そうかもしれない。
『お会いするなら、人となりをちょっと知っておきたい』という話し方をしただけで、一ノ瀬さんも軽い気持ちで資料をそろえてくれたんだと思う。

もちろん、着物を用意することも言っていなかった。

先ほど一ノ瀬さんに預けたときは、口をあんぐり開けていたっけ。


「しかし、母ですら父のうしろをついて回るだけなのに、初めてのお前がここまで気を回せるとは。聡明な妻を娶れて幸せだ」


『聡明』とはとても言えないけれど、彼が柔らかな笑みを見せてくれたので、ホッとした。
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