明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
彼はそう口にしながら、私を捕まえて腕の中に閉じ込める。

こんなふうに密着されると鼓動がうるさくなってしまうのに。

行基さんは私を片手で捕まえておいて、もう一方の手で枕元に置かれてあった書類をつかんだ。


「こんなに辞典を引いたんだな」


どうやら私が読んでいた野村さまに関する資料のようだ。

自分の部屋の机の上に置きっぱなしにしていたのを気づかれてしまった。

この資料の中の読めない漢字にすべてかなをふってある。


「本当に学がなくてすみません」


そうつぶやくと、彼は私の髪を優しく撫でる。


「なぜ謝る。俺は褒めている。それに、女学校に行かなかったのはあやの意思ではないんだろう?」


どうして知っているの? 

不思議に思いながら少し離れて視線を合わせると、彼は続ける。


「芸妓の件があったとき、お前がなぜそんな勘違いをしていたのか気になって、一ノ瀬にいろいろ調べさせた。そのとき、お前の実母のことを知ったんだ。一橋の母上が実子ではないあやを疎んじて自由を奪ったのも。女中をしていたのもそのせいだったんだな」
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