明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「八十八。多い……」


六十から八十くらいなら大丈夫と言われたが、出血が多いときは脈が速くそして弱くなると聞いた。
それはあまりよくない兆候だとも。

だから心配でたまらない。


「行基さん、頑張ってください。お願い……」


目を閉じたまま、浅い呼吸を繰り返し顔をゆがめる彼に声をかけ続ける。


カチカチと時を刻む懐中時計は、私と彼をつなぐ大切な思い出の品だ。

これをもらったとき、どれだけ気分が高揚したか。

それなのに、行基さんの命を見守るために使うことになるなんて、思いもしなかった。

あのときの優しい笑みを思い出し、胸がいっぱいになる。


「お願い、もう一度笑って……」


行基さんにねじを巻くことを忘れないように言われ、一橋家にいた頃も欠かさず巻いてきた。

それは彼との幸せだった時間を決して忘れたくなかったからだ。

こうして夫婦になれた今も、毎朝必ず巻いている。

この満たされた時間がずっと続きますようにと祈りを込めて。
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