明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「それは知りませんでした」

「言わないでしょうね。行基さんは黙々と努力はしますが、それを決して他人にひけらかしたりはしない、だから、行基さんに惚れ込んでいる社員が多いんです」


おそらく、そのうちのひとりが藤原さんだ。


「かといって、あやさんが不安に思うことなどなにもないですよ。行基さんは立場上、華族である一橋家の令嬢との結婚という道を選択しました。最初は会社のためだったでしょう。でも今は違う」


一ノ瀬さんは語気を強めて真剣な眼差しを向ける。


「あの事件で生死をさまよったとき、あやさんのもとに帰ってきたくて必死だったと、俺に漏らしたんです。決して楽しいことばかりではない人生。あやさんがいなければ、気まぐれにあちらの世界に行こうとしたかもしれないと」

「行基さんが?」


一ノ瀬さんは大きくうなずく。

たしかに彼は『あやのおかげでこちらに踏みとどまれた』と言っていた。
それは本当だったんだ。
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