明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
やがて貞の足音が遠ざかる。


「行基さん!」
「耐え忍ぶお前はそそる。今晩もたっぷり愛しあおうな」


彼は私の耳元で囁いたあと、「浴衣を出して」と離れていった。



それから三日後。また藤原さんがやってきた。

舞の練習中だったので少し待ってもらい、客間に顔を出すと彼はお茶を飲んでいた。


「お待たせして申し訳ありません」
「いえ。一ノ瀬さんが来る予定でしたが仕事が入り、急遽私が」


彼は私に風呂敷包みを差し出す。


「恋愛小説らしいです。社長があやさんにと。このような物を社長に頼まれるとは。恥かしいとは思われませんか?」
「すみません」


特に頼んだわけではないが、行基さんが気を回してこうして差し入れてくれるのだ。

相変わらずの冷たい物言いに顔が引きつるものの、素直に謝罪し受け取った。


「それで、お考えにはなりましたか? 離縁の話」


藤原さんは先日より直接的な言葉で私を追い詰める。
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