明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
それでも無念だっただろう。


「だが、藤原のつらい気持ちもよくわかって、止めるだけで精いっぱいだった。自分ならひとりで逝かせないのにと大の男が泣きわめいていたんだよ」


それほど深く愛していた人を失い、華族が憎くなってしまったのだろう。


「そのときに、もっと話を聞き吐き出させてやるべきだった。彼女のことには触れないようにして仕事に没頭させれば、時間が解決してくれると期待していたのが甘かったんだ。藤原の怒りがまさかあやにまで向くとは……。わかっていればあやに近づけたりしなかったのに」


藤原さんの私生活まで、社長である行基さんが背負う必要なんてないのに。従業員のことを常に気にかけている彼らしい。


「藤原は、本当は優しい男なんだ。乗り越えてほしい」


つい今しがた、あんなに強い怒りをぶつけていた人の言葉とは思えない。

しかし、藤原さんの深い悲しみを理解しているからこそ、あえて厳しい言葉を浴びせたのだとわかった。
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