明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
行基さんは相変わらず忙しく走り回っている。

今日はアメリカから輸入した最新型の精紡機の見学に、政府のお偉いさんが会社に来るのだとか。


「行ってらっしゃいませ」


今朝は一ノ瀬さんは朝食を食べに来なかった。
どうやら、準備のためにひと足先に出勤しているらしい。


「あぁ、行ってくる」


彼を見送るために門まで行き鞄を渡すと、章子さんが通りかかり、一瞬顔がゆがむ。

だけど、行基さんが私への愛をはっきりと示してくれたので、すぐに笑顔を作り頭を下げた。


「おはようございます」
「おはようございます」


彼女も同じように返してはくれたが、私を鋭い視線で見つめる。

負けない。
どれだけ彼女が行基さんのことを想っていても、彼を渡したりしない。

心の中でそう決意して行基さんのうしろに立っていると、彼が口を開いた。


「章子、顔色が優れないようだが」


彼の声を聞きハッとした。
本当だ。唇が青白い。
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