明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
玄関から近い部屋に布団を敷くと、彼は章子さんを寝かせた。

章子さんは苦しげに顔をしかめて目を閉じる。
どこが悪いのだろう。


「行基さん、時計を貸してくださいませ」
「あぁ」


暴漢に襲われたとき、脈の測り方を教わったことを思い出し、すぐに彼女の手を取る。


「八十六。少し速いです。章子さん、聞こえますか?」


呼びかけると彼女は小さくうなずいたものの、声を発することはない。
余程つらいんだ。


「行基さん、ご家族はいらっしゃらないのでしょうか?」


先ほどは彼女が持っていた鍵で玄関を開けたけど。


「彼女の母は亡くなっている。父は健在だが朝早く仕事に出かけてしまう。俺と同じ歳だった兄も……数年前に逝ってしまった」


それじゃあ、ついていてあげられる人がいないの?


「彼女は少し前に離縁して戻ってきたんだ。そのせいで少し心が不安定だったから、今回もそうしたことが関係しているのかもしれないな」
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