明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「お願いです。妾でもいい。行基さんのそばにいさせてください」


私は頭が真っ白になった。


章子さんが必死になって懇願してくるものの、現実とはにわかには信じられず、どこか夢見心地だ。


「離縁してくださいとは言いません。だから——」


行基さんの、子?
だって彼は私のことを、『最初で最後の女だ』と言ってくれたのよ? 

まさか……まさか、章子さんのお腹に彼の子がいるなんて、信じられない。


「嘘、ですよね」
「嘘でこんなことは言えません。私はずっと行基さんをお慕いしておりました」


そんな……。
私は行基さんに嘘をつかれたの? 

ううん。彼を信じると決めたじゃない。
彼は平気な顔をして嘘をつける人じゃない。

混乱し、返す言葉が見当たらず呆然としていると、彼女は涙ながらにもう一度訴えてくる。


「お願いです。妻になりたいとは言いません。だから、だから……」


だから、妾としてそばにいさせてと?
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