明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
自分を産んだ母ではないとわかり、それ故虐げられていたことを知っても、母は母だった。


「学校は行きます。でも、まだ時間はあるでしょ」


私は女中が作った食事をお膳に乗せ、大広間に運び始めた。
そこで集まって朝食をとるのが常なのだ。

しかし、その様子を見た初子さんが目を丸くして飛んでくる。


「あや。なにしてるの?」
「なにって仕事です。まだ食事を作るのは無理でも、運ぶくらいのことはできるのよ」

「まだお母さまのおっしゃったことを気にしているのね? あれはお父さまのせいで虫の居所が悪かっただけよ」


たしかにそうかもしれない。でも、遅かれ早かれこういう日がやってきた気がしてならない。


「初子さん、大丈夫。私、ウキウキしてるんです。誰かのために働けるって楽しいのよ。心配しないで」


『ウキウキしてる』は少し盛りすぎた。
この先の不安がないと言ったら嘘になるからだ。

だけど、もともと体を動かして働くのは嫌いではない。
なんとかやっていけると思う。
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