明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
角田さんの熱い告白に激しく胸が高鳴る。

でも、私の胸には行基さんが——。
どうしても彼を忘れることなんてできない。


「あっ、あのっ……」

「ごめん。俺、本気で父親になった気分で浮かれてた。仕事は休んでいいから、まずは体調を整えて。それからゆっくり考えてくれないかな」


彼は照れくさそうに頭をぼりぼりとかいてから、部屋を出ていった。

私……。
角田さんに握られた右手を目の前にかざして考える。

彼の優しい申し出に乗ってしまえたら……。

彼はすこぶる誠実な人だし、小説という同じ趣味を持ち、話もあう。
きっとこの先、楽しく暮らしていけるだろう。

でも……この手がつながりたいのは、この世でただひとり。


『行基さん』


心の中で彼の名を呼び、そっとお腹に手を当てる。


『あなたと私の子です。大切に育みますね』


彼と一緒に、この子の誕生を祝いたかった。
ふたりで四苦八苦しながら子育てをして、三人で笑いあいたかった。
< 280 / 332 >

この作品をシェア

pagetop