明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「それならもう少し寝ていなよ。喉が渇いたかな?」
「いえ、それも大丈夫です。お話があります」


私の世話を焼こうとする角田さんを制してそう口にすると、彼は神妙な面持ちで正座する。


「うん」
「角田さんがこの子の父親になると言ってくださって、本当にうれしかったです。この子が私以外の誰かに望まれて生まれてくるという幸せを、ありがとうございます」


もう一度頭を下げてから上げると、彼は眉根を寄せる。


「その言い方だと、断られるのかな……」

「申し訳ありません。私はまだあの人を忘れられない。いえ、一生、忘れられない——」


唇を噛みしめ、涙をこらえる。


「一橋さんはどうして離縁したの? そんなに好きなら、どうして? 子ができるということは、旦那さんともうまくいっていたのではないの?」


角田さんの言う通りだ。

私と行基さんは互いの家のために結婚をしたけれどそれは最初だけで、すこぶるうまくいき始めていた。

彼から目いっぱいの愛情をもらい、幸福の絶頂だった。
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