明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「まさか……出ていくってこと?」


私はうなずいた。


「辞めてどうするの? お腹に子供がいたら働けなくなるだろ?」


だからだ。だからここを辞めて出ていこうと思った。


角田さんは本当に優しい人。
私が結婚を断っても、ここに置いてくれるかもしれない。

でも、それでは私の都合で彼を振り回してしまう。


ここで子供を産めば、当然皆角田さんの子だと思うだろう。
そうしたら、彼は新しい伴侶と出会う機会を失うかもしれない。


「なんとかします。この子はちゃんと育てます」
「そんなの無謀だ。家もないのに、そんな……」


たしかに、無謀かもしれない。
だけどこの子のために強くならなくては。

行基さんとの間にできた大切な宝物は、私が守る。


「心配してくださってありがとうございます。でも私、強運の持ち主なんですよ。だって、角田さんとも出会えたじゃないですか」


私は笑顔を作って言った。
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