明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「はい。それではこれはありがたく頂戴します。いつか、この子の顔を見せに来ますね」


お腹に触れてそう言うと、彼はうれしそうに目を細める。


「おじちゃんの声、覚えているんだぞー」


角田さんが腰を折り、私のお腹に向かって囁くので噴き出してしまった。


「まだ無理ですよ」
「あはは。そうだね。まずいな。子を通り越して孫ができる気分だ」


そして彼もケラケラ笑った。


「それでは」
「うん」


私は深く頭を下げ、貸本屋を出る。
きっと彼がいつまで経っても見送っていてくれる気がして振り返らないでおいた。

今振り返ったら泣いてしまいそうだったからだ。

今度彼に会うときは、とびきりの笑顔を添えたい。


「どこに行こう……」


これからの生活の計画などまるでない。
とにかく仕事を探さなければ。


今日は宿をとるとして……家も、角田さんが持たせてくれたお金があればなんとかどこかに間借りできるだろう。

女中として雇ってもらうものいいかもしれない。
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