明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「わかりました。しばらくはおとなしくするよう努めます」
「あはは。頼む」


彼はひとしきり笑ったあと、真顔に戻り私に熱い眼差しを注ぐ。


「あや。俺の前からもう二度と消えるな」
「……はい」


私だって消えたかったわけではない。


「行基さん、聞いてもいいですか?」
「あぁ、なんでも」


この際、心のもやもやは全部解決しておきたい。


「先ほど、初めて会ったときから、私のことが気になっていたとおっしゃいましたけど……行基さんは私に『愛せないかもしれないが覚悟はあるか?』と問われましたよね」


私はあの言葉がずっと引っかかっている。
それもあって、章子さんが彼の想い人だと勘違いしてしまった。


彼はそう言ったあと、ふと視線をさまよわせ言葉を探しているように見える。


「それは……俺が大切に思うものに次々と不幸が襲いかかってきたからなんだ。だから、あやと想いを通じ合わせてしまったら、あやまでも不幸になるのではないかと怖かった。もう気持ちが傾いていたからこそ、自分を戒める意味もあった」
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