明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
どういうこと?

首を傾げ彼の目を見つめていると、一瞬唇を噛みしめてから続ける。


「俺には弟がいた」
「あっ……」


そういえば、初子さんがそう言っていたような。


「知っていたのか?」
「はい、初子さんから亡くなったと聞きました」

「そう。俺が尋常小学校に上がった年に、弟は俺の風邪をもらってこじらせ……そのまま」


行基さんの風邪を? 

でも亡くなったのは彼のせいじゃない。
兄弟なら風邪を移したり、移されたりなんて日常茶飯事だ。

私や孝義、そして初子さんも連鎖することがよくあった。


「それは行基さんのせいでは——」

「それだけではない。章子の兄は、俺と信明の同級生で、ずっと仲良くしていたんだが……」


そういえば、数年前に逝ってしまったと言っていたような。


「信明とともに、津田紡績の頭脳として働いてくれていた。頭の切れる男で、人を使うのがすこぶるうまかったので、工場の責任者として従業員をまとめてもらっていたんだ。でも……ある日、工場で起きた事故で逝ってしまった」
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