明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
「わー、かわいい!」
「でしょ? ほら、つけてあげる」


初子さんは私の背中に回り、髪に挿してくれる。


「い、いいわよ。初子さんの物でしょう? 私は髪もぼさぼさだもの」


働いていると、服装や容姿を気にしてはいられない。


「ダメよ。素敵な女性になるには、身だしなみをきちんとしないと」
「えぇ、でも……」


初子さんはそう言うが、子爵令嬢としてではなく女中として生きていくと決意した私には関係のない話だ。


「ねぇ、あや。本当に高等小学校に行かないつもり?」
「行かないわよ。私、女中の仕事が性に合っているみたい。楽しいの」


満面の笑みを浮かべると、初子さんは眉根を寄せながらも小さくうなずく。

この家では父の言うことが一番。そして次に母。
ふたりに逆らうことは許されない。


まつに本当の母のことについて尋ねてみたものの、人気のある芸妓だったがすでに亡くなっているということしかわからなかった。
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