スリジエの花詞
葛城家の離れを出た伊尾は、岬に向かった。

傷つけてしまった彼女のために、しなければならないことがあるからだ。


「――…雅さま」


そう、さいごの瞬間まで、いとしくてしょうがなかった少女の名前を呟いた。

ほんのり熱を持った風に吹かれながら、誰にも聞こえないくらいの小さな声で。

彼女は知らない。彼がどんなに想っていたのかを。想っていたからこそ、永遠に秘めていたその理由を。


彼はポケットに入れていた携帯を取り出し、写真のアルバムを開いた。そこには、彼女の小さい頃からつい最近の写真がびっしりと保存されている。

彼はそれを最初から見ては、ゆっくりと消していった。


——雅さま、あなたは知らない。僕が、紳士の仮面をかぶった男であることを。


「——…あーあ。どうしてバラさなかったんだろう。本当はただの変態で、ストーカーだってこと」


明かせなかった理由は分かっている。

彼女が大好きな“執事の伊尾”でありたかったからだ。

手を伸ばしたら、手を取ってくれる。そんな近くて遠い、お嬢様と執事の関係に酔いしれていた。
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