枯れた華には甘い蜜を
雅の癒しの場、喫煙所に行くと見慣れた男がいた。

出来る同期であり、近々出世するんじゃないかと噂が耐えない男。青葉 英(あおば すぐる)。

雅が上司のせいでクビになるかもということを、英はもう耳にしていたらしい。ニヤニヤとした顔つきで、雅を喫煙所に迎え入れた。

「今井、お前さクビになるんだって?」

「まぁ。上司の責任だってバレなかったら、クビになるでしょうね。いや、なるわ。荷物まとめとけって、言われたからなぁ」

雅は、いつも持ち歩くポーチの中からタバコを出すと口に咥えた。それを待ってましたとばかりに、英がタバコを咥えたまま雅に近づく。

そして、雅のタバコと英のタバコが軽く口づけを交わした。シガーキスである。

雅と英はよく喫煙所でシガーキスをするが、別に好きあっているという訳ではない。昔からこうなのである。

英はこれでも2児のパパである。英の嫁は、雅の元部下なのだ。昔から雅と英がシガーキスをしていたのを知っているので、気にしていないみたいだ。

だからこうして他人の目を気にすることなくシガーキスをしていたら、浮気をしていると何回も疑われたことがある。

しかし、雅は男に興味がなく、英は嫁&子供LOVEなのだ。浮気をするわけがなかった。

「今井。お前さ、そろそろライター買えよ」

「いや、買わないね。タバコ、もう止めるつもりだしさ」

「タバコ大好きなお前が、一体どうしたんだよ」

英が驚くのも無理はない。

ヘビースモーカーとまではいかないが、雅はタバコをこよなく愛している。

それなのに、止めると言っているのだ。

「だから、これが最後の1本なの」

幸せそうに紫煙を吐きながら、雅は笑った。
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