枯れた華には甘い蜜を
雅は最後の1本を吸い終わると、名残惜しそうに喫煙所を後にした。

大好きだった、癒しの場所。もうここに来ることはない。

「クビになったら、お前どうすんの?」

喫煙所を出る前、英が雅に問いかけた。

まだクビになることは決まっていないが、きっとあの上司のことだ。雅を本当にクビにするだろう。

雅は、立ち止まって頭の中で考えた。自分は、これからどうするのだろうかと。

しかし、思い付くのはひとつしかない。

「あんな上司がいない会社で、働くに決まってるでしょ」

雅らしい答えに、英はただ笑った。

「じゃ、俺はここで検討を祈っとくよ」

「ありがと」

雅は英の顔を見ることなく、喫煙所を去った。

喫煙所を出て、雅が向かうのは自分のディスク。いつでもクビになっていいように、荷物を片付け始めた。

雅が荷物を片付けるのを、部下達が涙ぐみながら見ている。

「何で、雅さんがクビになんないといけないんですか!?」

部下のうちのひとりが、涙声で言い放った。それを聞いた部下達は、うんうんと頷いている。

「まぁ、あのボンクラ上司は私のこと嫌っていたみたいだから」

「だからって!」

「まぁ、まだクビになるって一応決まった訳じゃないし。たぶん、心配しなくてもいいよ」

そう。雅がクビになるとは、まだ決まったことではない。

上司がやった損失だとバレるのが先か。

それとも、上司が雅にクビを言い渡す方が先か。

雅は荷物を片付けながら、前者の方になってほしいとちょっとだけ願っていた。
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