Black Cherry ~にゃんこな彼女は一筋縄では捕まらない~
「あ、気付いた?まぁ、良いじゃないか。菜々子って可愛らしい名前だし、呼びやすいし」
いやいや、貴方は上司で私は部下なんですけどね。
そう思った私の顔はなんとも言えず微妙な顔をしていたのだろう。
「私は単なる一部下に過ぎません。どうか苗字で呼んでください」
突き放すような冷たさで言うのに、彼はニコっと笑ってサラッと受け流す。
「会社にいる時はそうしよう。でも今は会社じゃない。だから好きに呼ばせてもらうよ。今ここに居る俺は、君を振り向かせたくて必死なただの一人の男だから」
どこまでも甘い微笑みで言われる言葉も想像より飛んでいる。
私は飲んでいたミルクティでむせた。
「ゲホッ、ゴホゴホ…」
「大丈夫か?」
心配そうにのぞき込まれ、慌てて顔を上げる。
「大丈夫で、す!あの、専務…。本気で言ってます?」
私は聞き返した。
「もちろん。こんな事冗談で面と向かってる相手に言わないでしょう?俺は本気。あの日BARで俺は君に一目惚れしたんだよ」
そう、艶やかに微笑む色気たっぷりのイケメン。
私はあまりの事に何も返せず、カップに残るミルクティーに視線を落とす。
「今日の沙苗との待ち合わせもわざとですか?」
「そうだね。君の事になると、俺は形振り構っては居られないんだ。必死だよ…。君は俺を知ってて何も言わずに去るような人だからね」