独占欲強めの王太子殿下に、手懐けられました わたし、偽花嫁だったはずですが!
「ごめんなさい、アーベル様。今日は、どこに行きますか?」
「あ、いや……俺も、大声を出して、悪かった」

 自分の気持ちがこんなにも制御できないものだなんて、想像したこともなかった。
 涙をぬぐった頬を見せないようにして、すっとアーベルから身を離す。

「女性達とのお茶の時間に同行したらいいですか。それとも、観劇? 庭園の池でのボート遊びですか? 美術館での鑑賞なら、それに合わせたドレスを用意します」

 大丈夫、自分の声が震えていないというだけで、安堵した。フィリーネに向かいアーベルは困ったような笑顔を向けた。

「——南の広間で、お茶にしようか。そこなら、人目にもつきやすいだろ」
「それもいいですね」

 南の広間なら、互いに友好を深めている令嬢達がお茶をたしなんだり、おしゃべりをしたりする場所だ。

 そこにアーベルと二人で行くということが何を指しているのか、フィリーネだってちゃんとわかっている。この想いが一方通行であることも。

(……最初から、期待なんてしてなかったじゃない)

 アーベルの花嫁候補として招待されたけれど、そもそも彼の目に留まることなんて期待していなかった。
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