艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「あ、えっと……琥珀糖です。作ってきたんですけど……た、食べますか」
いきなりキス、とかではなかったけれど。背中のゼロ距離が、急速に私の心臓を追い詰める。
彼の手が私の目の前で瓶を開ける。緊張感に耐えられなくて、なんでもいいから話題を探した。
「昔、祖母に初めて作り方を教わったお菓子なんです」
「へえ」
彼が声を発するたびに、偶然なのかなんなのか吐息が耳にあたってくすぐったい。
「料理もお祖母さんから?」
「基本はそうです。でも、祖母とはお菓子作りの方が多かったかも。洋菓子でも和菓子でもなんでも手作りしちゃう人で……」
開いた瓶が傾けられて、とっさに差し出したてのひらに。
ころん、と琥珀糖がひとつ、きらめきながら落ちて来る。