艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
「ほら、早く」
話しの続きは?
と催促しながら、彼のキスは唇ではなく頬から耳へと移っていく。じん、とそこから熱が生まれた。その感覚は、たまに彼が耳のピアスに触れるときから感じていて、だけど今は特別強い。
なんで耳に触れられるだけで。
「んっ……」
咽喉から出た甘い声に、涙が滲む。恥ずかしくて、話どころじゃない。そんな私を、彼はわかっている。強張った私を壁との間に挟んで、彼が更に距離を詰める。
肌の匂いや、心臓の音さえ伝わってしまいそうな近くで、彼は一度深呼吸をした。
「……葛城さん?」
不思議に思い、顔を上げる。すると彼は、薄く唇に笑みを浮かべて言った。
「可愛い妻が飛び込んで来て手を出さずに逃がすほど、俺は欲のない人間じゃない」
私を試しているような、そんな気がした。怖がって逃げようとするのを待っている気がした。
こく、と息を飲み、言葉が出ないでいると、彼が力を抜いて溜息を吐き、一歩下がろうとする。
「や……」
離れて行ってしまう、と思った。
確かに怖い。だけど、このところずっと距離を置かれていたことを考えると、離れていくのも寂しくて、つい彼のシャツに縋り付いてしまう。
その途端、彼の目の色が変わった、ように見えた。