艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
運転席から、くすりと笑う声がする。
「本当に、ただのおっさんだから。やっぱり経営は向いてないって俺に会社継がせて、自分はさっさとパティシエに戻ったんだ。やっぱり古巣が良いらしい」
「おっさん……お母さまは?」
「かしましい」
「えええ」
想像してみるが、やっぱりいまいちぴんとこない。葛城さんに似た顔で、おっさんとかしましいというイメージがつながらないのだ。じっと彼の横顔を見ている時だった。
「携帯、鳴ってませんか?」
「ああ。多分会社からだから、後でかけなおすよ」
着信音は出ていないけれど、かすかな振動音が聞こえていて、しばらく止まらなかった。