艶恋婚~御曹司と政略結婚いたします~
やはり、まだ万全ではないのだろう。
具合が悪くなったのだろうか、と慌てて靴を脱いで上がる。


リビングから話声が聞こえて、口調や声音から仕事の話なのだとすぐに悟った。
中扉を開ける手が、無意識に止まった。話し声に、つい耳をそばだてる。


「問題ないよ。それから、大田原さんの茶会の主菓子は葛城で決まったから連絡を頼む」


大田原さん。
私と葛城さんが出会うきっかけになった春の野点の主催者だ。
直接のお客様はもう息子さんに当主を譲り引退されたが、今でも影響力がある。


秋の茶会は、その奥様が主催で春も秋も花月庵を主菓子に使ってくれていたはずだ。


「望月さんもそれでいいと言ってる」


父が、そう言ったのだろうか。
レセプションパーティで言っていた、和菓子の新商品のことを思い出す。それが使われるのかもしれない。


お客様と技術の共有は最初から覚悟の上だが、大事な大田原様の茶会を葛城の和菓子に譲るだなんて思わなかった。
私の中で、葛城さんに対する不信感が膨らんでいく。

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